ドイツのユニークな“まちづくり”
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イベントによるまちづくり
国際建設展覧会 IBAエムシャーパーク
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ドイツのまちづくりについて、 これまで比較的小さいプロジェクトを取り上げてきたが、 今回はとびきり大きな地域、 全体の計画地域が8万ヘクタール、 ドイツ全体を切手ほどに縮小しても判明できるほどの大きな話を紹介したい。
これがまた面白く、 日本ではおそらく絶対にない計画であろう。
国際建設展覧会を開催するにあたってマスタープランというか完成予定図をつくらない、 さらに特別法もなく特別予算もゼロである。
そしていま9年間の準備期間が終り、 今年5月から10月までその成果を世界に問う展覧会フィナーレが開かれる。
この国際建設展覧会IBA エムシャーパークのコンセプトについては、 わが国でも2、 3紹介されているので、 ここでは一般に紹介されていない、 あるいは記述されていてもザットふれられているだでけで気がつかない、 ドイツ的でユニークな部分を、 とくに金なし、 特別法なしで運営している、 まさに現在経済不況のわが国ですぐにも取り上げられそうな方針を紹介したい。
国際建設展覧会
ドイツにはIBA方式という伝統あるまちづくり手法がある。 IBAとはInternationale Bauausstellungの略で国際建設展覧会、 最近ではIBAベルリンが著名である。
これはある地域に国際建設展というイベントを持ってきて行なうまちづくりである。 町並みとか建築物の設計に、 国際設計競技で募集した超一流解決策を、 実際につくり、 展示する。 ただし必ずしも超高価という意味ではない。 建設展のために作られたり整備された施設は、 従来の町並みに組み込まれ、 都市のストックを形成していく。 これはちょうどわが国で、 国体が行なわれ、 その町のスポーツ施設が整うようなものである。
IBA エムシャーパーク
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1. IBA エムシャーパークの位置図
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今回行なわれているIBA エムシャーパークはルール地方、 エムシャー川の流域一帯の再整備計画である。 ルール地方は60年代にはいり石炭についで重工業が下火になり、 不況にみまわれ、 西ドイツでの失業率が最大となるった。 そこで今回ここにIBAというお祭りをもってきて、 経済地盤を盛り上げようというものである。
それにしても大きな規模を取り上げたものである。 対象地域は長さ40km、 幅7km、 面積およそ800平方キロメートル、 指定区域には17の地方自治体が含まれている。
ないないづくしの運営方針
国際展覧会をはじめるにあたって、 完成予定図がなく事業費もゼロ。 また官が事業を行なおうという場合、 特別法をつくるとか関係諸機関に参加義務を負わせることができるが、 ここではその特別法もなく、 展覧会場区域に指定されたこの17地方自治体には参加の義務もない。
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2. かつての工場施設がそのままの姿で残されている、 産業記念物は地域のアンデンティテーである
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3. コンクリートで作られたエムシャー排水路、 「心臓の鼓動が聞こえるか(死んでしまってもう聞こえないだろう)」と落書きされている
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何故ないか。 まず完成予定図のないことであるが、 ますます変動の早くなる社会のなかで、 近年、 都市計画の完成と同時に手直しが必要であったり、 完成する前に、 もうそのコンセプトの見直しが行なわれたりすることを私達は体験してきた。 自分のつくった計画や予測データを自分で見直しを行なう私達は最初の世代であろう。 そのためここでは、 不確定な将来を固定した完成図ではなく、 プランに流動性があるガイドライン方式(後述)がとられている。 完成予定図がなければ予算が立たないから、 したがって事業費はゼロである。 また、 特別法や地方自治体の参加の義務をつくらなかったのは、 従来のしかたで充分、 なくとも出来るという考え方であろう。 無ければそれにこしたことはない。
金がなければ頭を使おう
展覧会の開催主体はノルトライン・ウェストファーレン州である。 州はIBAという大事業の遂行のために、 1つの頭脳集団を設立した。 IBAエムシャーパーク社である。 これは州の外郭団体で有限会社の形式をとり、 展覧会の期限10年間をかぎって存在させる。 運営費は州が負担し、 州からの役人2人が社長と副社長を担当し、 その他の33人の作業員は期限付きで雇用されている。
州がIBA エムシャーパークの事業にあたってこのような外郭団体を作った理由は、 1つには特別事業のためさらに人を雇って、 役人を増やしたくないこと(会社は事業後に解散すればおしまい)と、 もう1つは、 民間会社で小さく1つのまとまった組織は小回りがきく、 早い決定が可能であること(ドイツでもお役所の担当主義には頭をなやめていることがこれでわかる)、 また、 民活が重んじられる今日、 こういった民間形式のほうが都合がよいこと、 などの理由である。
完成図にかわるガイドラインの設定
頭脳集団がまず第一に行なったことは、 展覧会の目標作りである。 展覧会による経済活性化の具体案つくりである。 ここでつくられたのは、 完成図ではなく、 将来の方針、 理念をつくっておく、 ガイドラインである。
展覧会事業をしていくガイドラインとして7つの方針テーマがつくられた:
1)エムシャー地域の自然景観復旧、 2)水系システムの改善、 3)体験の場としての運河、 4)産業文化財の保存、 5)緑の中の職場、 6)住宅建設と地域開発、 7)社会活動、 文化活動、 である。
すなわちIBA エムシャーパークの目的は、 展覧会場に指定された地域内の緑地と水系の保存と回復、 雇用の拡大、 住環境の整備、 産業遺産の保存である。
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4. ラインエルベ学術パーク、 ソーラーエネルギーの会社が集まっている。
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IBAエムシャーパーク社は、 この目的に対応するようなプロジェクトを官民の事業のなかから掘り起こし、 IBAプロジェクトとして事業化していくわけであるが、 様々なプロジェクトを、 互いの相乗効果を考慮しながら結束させる必要があり、 そのためIBAプロジェクトへの採用には5つの原則がある。
1)斬新なアイデア、 枠にとらわれない考え方をとりあげ援助する。 この地域には頭だけ大きな石炭や鉄鋼産業があり小回りがきかない、 この体制を変える必要がある。
2)水系改善、 社会住宅、 省エネルギーなど州の助成システムで最大の費用効果が発揮できるもの
3)長期失業者の雇用の場
4)自然生態にプラスになること、 例えば、 緑地の拡大、 雨水利用、 環境にやさしい建材利用
5)どのプロジェクトも文化/美観の価値をもたねばならない。 機能的で経済性が高いのは当然であるが、 それに加えて文化、 芸術の価値がなければ住民からの支持は得られない。
これでみられるように、 この展覧会は何を作るかが決まっておらず、 地域改善に必要な事項を決めておいて、 それに合う事業を「展覧会事業」として援助しながら作っていく方針である。
こうして採用されたIBAプロジェクトには、 IBAエムシャーパーク社によって良いものつくりに最大の努力がはらわれる。
IBAエムシャーパーク社のプロジェクト対応
7つの方針テーマに対応し5つの原則に相応する、 として取り上げられたプロジェクトは、
1)まず、 民間公共を問わず、 IBAエムシャーパーク社と契約が結ばれ、 IBAプロジェクトとして事業目標が明確にされると同時に質が管理される。
2)IBAエムシャーパーク社は各プロジェクトについて、 コンセプトの設定、 コンペや事業実施の指導をする。
3)実施設計案や都市計画構想は設計競技(コンペ)で募集する。 国内ばかりでなく国外にもよびかける、 ここから国際建設展覧会の呼称がついている。
4)前例のない問題にぶつかった場合、 専門家セミナーを開催したり委託研究を行なったりする。
5)あるいは国の内外の専門家や参考人を招き、 ワークショップを開催する。 これは地域住民の関心を喚起することにもつながる。
予算ゼロでどうして事業を行なうか
IBAエムシャーパーク社は「予算ゼロで権力も強制もなく、 展覧会の開催準備にあたる」と記述したが、 実際には少しの優先権があり事業の見とおしもある。
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5. 旧炭坑施設で行なわれるコンサート。 産業遺構を文化財に
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まず第一に、 IBAエムシャーパーク社は州の機関であるから、 州のプロジェクトをIBAプロジェクトとして使える。 すなわち学校とか緑地整備など、 州の行なう公共事業をIBA事業として、 これには「事業誘致などで他の地区と競争がおきた場合、 おなじ条件なら」という条件つきではあるが、 展覧会区域内にもってくる。 そして国際コンペで世界の建築家からデザインを含めた解決策を募り、 それを事業化し、 すばらしいIBAプロジェクトとして世間に広く報道する。
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6. ランドスケープとして造形されたボタ山を敷地計画に取り入れた住宅団地
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また一方、 地方自治体には義務はないが参加利点がある。 IBAプロジェクトに採用されれば、 州のインフラ設備金によって長期の計画が可能となる。 たとえば州の住宅建設の枠はきまっており、 IBAプロジェクトではそれを期待できる。 またIBAエムシャー社が各種の補助金、 たとえばヨーロッパユニオン助成金といった考えてもみなかった補助金をアドバイスしてくれる。 これらはおおきな魅力であり、 IBAに参加しようと努力する(市や州の助成システムが現在36ある)。
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7. 女性がプランし、 女性が作って住む社会住宅。 従来の住宅建設を見なおす
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さらに民間事業で特に重要なことであるが、 IBAプロジェクトに指名されることは、 社会的信用がたかまり、 宣伝効果が上がることになる。 IBAプロジェクトには道路沿いに看板がたてられ、 新聞やIBAエムシャーパーク社によって公報され、 人がみにきてくれ、 それが誇りとなる。
IBAエムシャーパーク社の重要な作業は、 ひと口にいえば、 コーディネートと「公報」である。 IBAプロジェクトとして取り上げられた事業には、 あらゆる補助金をあつめ、 良いものつくりのコーディネートをする。 そして出来たものを、 IBAプロジェクトの名前をつけて公報する。 これがコンセプトである。
したがって公報はIBAエムシャーパーク社では、 たいへん重要な仕事である。 会社の総人数は35名でその内訳は、 5名が事務で、 残りは「プロジェクト担当」と「公報」が同数で分けられている。 なんと専門職の半分が公報である。 公報がそれほど重視されていることがこれでわかる。
IBA エムシャーパークの方針は「地域、 都市、 建築の開発にあたって必要なアイデアを国の内外から募りそれを実現させる。 またそういった一連のまちづくり過程そのものを展示する」ところにある。 ここが一般の展覧会と大きく違う。 完成した姿ではなく、 地域改造の過程で、 どのようなプロジェクトが、 どのようにおこなわれたか、 戦略的な解決方法もここでは展覧会の一部である。
IBAプロジェクト数は現在117(1999年4月)、 そして、 プロジェクトの総経費は約50億マルク(約3500億円)で、 費用割合の内訳は官が2/3と民が1/3となっている。
IBA エムシャーパークの特徴
1)良い建物や手本となるまちづくりを実際に作って見せる。 まちづくりへの一般の意識をたかめる。 世間一般の目を養い、 美の感覚を啓蒙する。
2)展覧会場は、 どこかの遠くはなれた郊外ではなく、 既成市街地内部のあちこちに良い実例を示し、 波及効果をねらっている。
3)1つ1つ完成したものは、 地域のストックとなって、 町の改善につながっていく。
4)まちづくりの過程をみせる、 町が少しずつ良くなっていく方法やプロセスを、 住んでいる町を住民と一緒に進めていく。 このプロセスは展覧会が終わっても今後さらに続けられていくであろう。
参考文献
1 春日井 道彦「IBAベルリン−イベントとしての国際建設展覧会」『都市計画』平成2年6月
2 春日井 道彦「地域開発戦略の実験場目指す国際建築展、 IBA エムシャーパーク」『NIKKEI ARCHITECTURE』1992年5月25日号
3 21世紀の工業都市を目指して「講演会議事録」、 富士商工会議所他、 1994年10月
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(C) by 春日井道彦
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