ドイツのユニークな“まちづくり”
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3 自転車重視の
“まちづくり”

ミュンスター

 

改行マーク今回は「自転車重視の“まちづくり”」としてドイツでがんばっている町の1つミュンスター市を紹介したい。


車と人間

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図1 大聖堂のあるミュンスターのプリンチパールマークト
改行マークドイツでは、 わが国でもそうであるが、 これまで都市計画は経済発展という至上命令にふりまわされてきた。 道路の舗装率を高め、 道路拡張を行い、 市内にガードレールをつくってきた。 これらはすべて車のため、 車すなわち経済発展の都市計画であった。 ここには人間のため、 都市の快適性といった観点はあまり重視されていなかった。

改行マークしかし車は歩行者をおびやかす。 町の中に車が入ればその分だけ人間は締め出される。 町は車に占領され、 人は道路の端に身を縮め、 用を足すために大急ぎで道を通り抜けるありさまとなってしまった。 ゆっくり町を散歩する、 道路で人と立ち話をする空間はいつのまにか町の中からなくなってしまった。

改行マーク車はしかしどんどん増える。 町の中はいつも車の渋滞である。 近頃になって分かったことは、 車のために道路をいくら整備しても間に合わない、 道路をつくれば作るほどそれだけ車が増えるということだ。

改行マークそして最近では、 車の使いにくい“まちづくり”をするようになった。 道路を狭くする、 一方通行、 駐車禁止などである。

改行マーク フランクフルトには自転車宅配というものがある。 これは車よりも自転車の方が早いから商売になるもので、 携帯電話を常備した若者が背中に配達書類の入ったリュックを背負い、 レース用バイクで道路の渋滞を横目にすいすいと車を追い越していく。

改行マークたしかに自転車は都市の交通手段として適している。 自転車はどこの家庭にもあり、 時間に制限なく使え、 スピードは歩いていくより数倍早い。 おまけに外の新鮮な空気にふれ健康で楽しい、 ただしそのための環境が整っていればという条件が付く。 その条件とは安全な道路と自転車の置き場所である。

改行マークドイツのテスト財団が「自転車の使える都市」を調査した事がある。 道のりや安全性などで、 バーゼル、 フライブルクに並んでミュンスターは上位3都市に取り上げられ、 また読者アンケートでは「自転車利用に便利な都市」のドイツ第1位になった。

改行マークここでその自転車の町ミュンスターの自転車重視政策を見てみよう。

改行マークミュンスターはルール地方から北にいったオランダに近い、 人口は約28万人、 その中心には中世の広場プリンチパールマークトがある非常にきれいな街である。 この町の名前「ミュンスター」とはドーム、 大聖堂という意味でもある。

改行マークミュンスターはいまから丁度10年前、 ノルトライン ウェストファーレン州の「自転車交通のモデル都市」に推薦された。 これは「市内の自転車交通を魅力的で安全にするため、 系統的かつ全域において整備し、 他の都市の模範となる」ものである。 すなわち、 車をおさえ自転車の使いやすい“まちづくり”をする、 というものである。


車と自転車とバスの比較

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図2 90人が移動するのに必要な道路空間(写真出典:Stadt Munster)
改行マークここにミュンスター市が行なった「交通機関と必要な道路面積」について非常に興味深い比較がある。 90人が交通機関を使って移動するのに必要な都市の道路面積である。 左から自転車、 車、 バスが比較されている。 くるまは1台あたり平均1.5人で走っているので60台分の道路が必要、 それに対して自転車が必要な道路はこの写真で見られるようにその何10分の1かで済む。 都市において自転車の有効なことの誠に納得のいくデモンストレーションである。

改行マーク都市の中での諸悪の源であるマイカー規制を言う場合、 それに対する有効な代案を出さねばならない。 ここでその有効策として、 自由で機動性ある、 自転車とバス・列車のコンビネーションがある。

改行マーク1つのバス停まで自転車で行く場合、 歩いていくより3倍の速さで着く。 見方を変えれば自転車はバス停の有効範囲を面積で10倍にする計算となる。 この2つの交通機関の共通利点は、 場所の節約、 環境にやさしいい、 また広い層の人が利用出来る。 相違点として、 自転車は自分の家の戸口まで、 何時でもどこへでも自由に使用できる。 一方、 バス・列車は早い速度と広い行動半径にある。 この2つの特長を結び付けることによって、 機動性にそんなに大きな負担をかけることなくマイカー抑制が達成できる。 この古くて新しい見地からミュンスター市はこのコンビネーションをより強力に推進していく方針を決める。

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図3 ミュンスターの広域自転車道路ネットワーク(赤線)
図4 都心部の自転車道路網(黄色) 2列の丸印は自転車専用環状道路
図5 緑で囲まれた自転車専用環状道路
改行マークミュンスター市の行なっている自転車優先政策は、 まず第1に自転車のための施設つくりとして「自転車路線ネットワークの強化」がある。 現在、 市の自転車道路の総延長が250km。 (ビスマン運輸大臣は98年5月ベルリンでのドイツ自転車クラブの開会式に、 「2000年までに自転車道路の建設に400ミリオンマルク、 約300億円、 を投資し、 ほぼ1000kmの自転車道路を新しく作る」と発表−この4分の1をすでにミュンスターは完成している−)。

改行マーク2番目の自転車優先政策として、 自転車のための交通規制の緩和、 が行われている。 車の進入禁止や一方通行を自転車に開放する、 などである。 −この写真では歩行者天国でも自転車は、 特定時間には通行可能にしている。

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図6 自転車のための特別信号
改行マーク3番目は自転車のための特別標識 、 特別信号などの整備である。 自転車のための信号機で、 車とは違った自転車を優先した制御がおこなわれている(図6)。

改行マークこれらの自転車優先の交通規制と平行して、 バス路線の強化、 車への交通規制の強化(たとえば、 居住地全域を30キロ制限ゾーンとする、 無料駐車場を無くす)などが行われている。

改行マークこの政策によって1972年に比べ1991年にはミュンスター市内の自転車交通量がほぼ4倍に増加している。

改行マークミュンスター市での外出に使用される自転車利用率は現在43.1%と非常に高い。 なお、 ミュンスターは28万人の人口に30万台の自転車があり、 自転車の所有率がドイツ最高ということである。 (これは職場にも自転車を置いておくなど、 1人で数台所有のため)


自転車置き場

改行マークさて自転車交通には自転車をとめておく場所の問題がある。 自転車の市内放置の問題である。

改行マーク市内に指定の自転車置き場を作る、 ミュンスターにはこれが大変多くつくるられている。 ここにおけば無法駐車でないので安心である。

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図7 市内に設置された屋根付きの自転車置き場
改行マーク 屋根付きの置き場があればなお良い、 固定された金具がありカギがかけられる。 これが市内に3ヶ所作られている(図7)。

改行マークさてこのミュンスター市の自転車重視の“まちづくり”のハイライトはなんといっても「中央駅前自転車預かり所」であろう。 ラートスタチオン(Radstation)というスマートな名前の3000台収容の自転車置き場を中央駅前に建設しようというものである。

改行マーク現在、 駅周辺には毎日約3000〜4000台の自転車の乗り付け駐車があり氾濫状態にある。

改行マーク一時期警察が取り締まり放置自転車の撤去などが行われたが、 これが功を奏さないのはわが国と同じである。

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図8 中央駅前広場の地下に計画された自転車預かり施設
改行マークラートスタチオンの建設場所は、 プラットホームになるべく近くということでミュンスターの場合、 駅前広場の地下にもっていくのが最良と判断された、 欠点は工費の高いことと長い工期である(図8)。

改行マークこの地下自転車置き場には、 地上から大きな出入り口を設け、 上部をガラス屋根で覆い自然光が充分に入り、 地下の雰囲気を感じさせないような建物、 また、 広場の上から自転車置き場が見られ、 部外者のいたずらなどの監視も兼ねる総ガラスの建物が考えられている。

改行マーク建設費用は工事予定地の大部分が市有地で、 残りの土地は鉄道から買いとることとし、 その総額は15.9ミリオンマルク、 ほぼ12億円である。

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図9 上下2段システムで3000台収容
改行マークこの費用は市が全額負担するのであるが、 自転車置き場の建設については州の補助金があり、 さらに市内の駐車場建設費(車の費用を自転車に転用!)をこちらにふりむけるので、 市の直接の財政負担はゼロということになる。 上下2段の格納システムで3000台収容できる(図9)。 (このラートスタチオンの準備にあたってオランダへの研修が行われている。 この上下2段の格納システムもオランダのもので、 ユトレヒトには4000台の駅前自転車置き場がある、 とのこと。 )

改行マーク自転車置き場の管理は、 ラートスタチオンの中にサービスステーションをつくり、 修理と貸し自転車を兼業する自転車屋が管理する。 預かり料金は1日1マルク、 約70円、 月700円、 年間契約7千円である。

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図10 現在工事中の駅前自転車置き場ラートスタチオン
改行マークミュンスターの自転車ステーションは現在建設中で99年夏が竣工予定である(図10)。


まとめ

改行マークここでは都市の中の車について考え、 人と車の共存はいまのままではムリではないか、 無理とすればその代わりとなるものは、 ということで自転車をとりあげ、 ミュンスターの例を取り上げた。 ミュンスターのほかにはフライブルク市なども参考になるであろう。